注文の少ない料理店
注文の少ない料理店
たなか秀郎
二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊の形をしてぴかぴか光る鉄砲をかついで、だいぶ山奥の木の葉のかさかさしたとこを歩いておりました。
そのときふと、うしろを見ますと、一軒のみすぼらしいトタン波板バラック造りの物置がありました。
二人の紳士は無視して通り過ぎようとしました。
すると、「当軒は注文の少ない料理店ですう~っ!」と叫ぶ声が聞こえました。
振り向くと、そのペンキの剥げかかった扉には、
「レストラン 西洋料理店 ねんねこや」
と書いてありました。
その下に、細かな字で、こんな事が書かれています。
「当軒は注文の少ない料理店です。
長い廊下はスペースがにゃいので作れません、
たくさんの扉は面倒にゃので作りません。
予算も暇もありません。
たくさんの注文もありません。
注文はたったひとつ。
どうか、おにゃかにお入り下さい。すぐ食べられます。
面倒な手続き要りません」
二人はぎょっとして顔を見合わせました。
すると扉の中からは、こんな声が聞こえてきます。
「おい、これじゃあ、話にならねぇ。俺なんざぁ、長~い廊下作ってよぉ、たくさんのメッセージ書いて、シナリオ作って…。おめぇたちのやり方にゃあ、このプロセスってぇもんがにゃい。つまらねぇ」
「もと親分だから忠告しますけど、話になるより腹の足し。動物タンパクはおいらたちには必須栄養素にゃんです~っ」
二人は顔を見合わせました。
互いに相手の顔が面白いほど震えているのが分かりました。ぐしゃぐしゃの紙のようでした。
扉から爪の生えた6本の腕が出て来てたちまち二人を捕まえました。
「ふにゃあ、ぐわあ、ごろごろごろ」という声がして、それからガサガサ鳴りました。
物置は煙のように消え、3匹の山猫が満足そうに顔を洗っていました。
もと親分だった山猫は舌なめずりさえしたのです。
了